警察官が拳銃を不正に使用して犯罪を犯した場合、いくら組織内の人間であっても、さすがに誰も庇い立てはしないだろう。
それは「職権」と「凶器」を同時に与えられた立場の人間が、一線を越えた行為をしたという意味で、社会が最も厳しく対処すべき事案だからだ。中江元院長が行っていたことは本質的にそれと同じ構造である。
精神科医は診断名ひとつで人の人生を拘束できる権限を持つ。その診断が虚偽であったり、意図的に歪められていたとすれば、それは単なる「医療上の誤り」では済まされない。
警察官による拳銃の乱用が「個人的な逸脱」ではなく「制度への裏切り」であるのと同様に、医師による虚偽診断もまた、医療制度そのものを踏みにじる行為である。
それにもかかわらず、「医師だから」「同業者だから」「組織を守るため」といった理由で目をつぶるのであれば、それはもはや庇護ではなく共犯に近い。
拳銃を使った犯罪を見逃す警察組織が存在し得ないのと同じように、虚偽診断を見過ごす医療界も本来は存在してはならないはずだ。
問題の本質は個人の資質ではない。強大な権限を与えられた専門職が、それを誤用したときに社会がきちんと制裁できるかどうかーーその一点に尽きる。そこを曖昧にしたままでは、同じ構造の被害は何度でも繰り返されるだろう。